電子ジャーナル価格上昇の理由

 

電子ジャーナルやビッグディールの契約金額は,年々その価格が上昇していくが,出版社が主張することも含め,価格上昇は次のような理由とされている。 (*1) (*2)

 

(1) 商品(市場)の特殊性

学術雑誌や学術論文というものは,代替がない商品である。 A という雑誌に掲載された “a” という論文は,価格の安い雑誌に載った “b” という論文では代用することができない。通常,代替可能な商品は,各メーカーが製造コストを削減し価格を下げて販売しようと努力するが,学術雑誌はそれが働かないという特殊性があるのである。研究に欠かすことができない質の高い雑誌は,図書館は購入せざるを得ず,結果として出版社が提示する価格を受け入れるしかないのである。

 

(2) 論文数の増加

 第二次世界大戦後,大規模研究プロジェクトの登場と研究競争の激化によって,それまでの研究分野がより専門家(細分化)され,研究者と研究論文が急増した(ビッグサイエンス)。学術論文数の増加は,学術雑誌のページ数増加や査読量の増加などとともに,刊行費用の上昇を招くこととなり,雑誌価格そのものに転嫁されることになった。その結果が,いわゆる1980年代後半からの「シリアルズ・クライシス(Serials Crisis)」につながる訳だが,電子ジャーナルに媒体が変わっても雑誌の編集コストは変わらないため,論文数の増加が電子ジャーナルの価格上昇の原因となっている。

 

(3) 商業出版社の市場独占

ビッグサイエンスにより新たな研究分野が増加し,研究者や論文数が急増するとともに,学術雑誌の発行タイトル数も増加していった。そして,学協会が発行する学術雑誌だけではまかない切れなくなり,1950年代からは商業出版社が重要な役割を果たすようになる。その後,商業出版社は,学協会が発行してきた学術雑誌を吸収し,さらに一部の商業出版社は,中小出版社の買収も積極的に進めたことで,現在では少数の大手出版社が学術雑誌出版の市場を独占している状態となってしまった。この市場の独占や価格支配が,学術雑誌の値上がりの大きな要因とされている。

 

(5) システム開発・機能強化

電子ジャーナルを利用するのは,主に大学や研究機関などに所属する研究者や教員である。これらの利用者は,基本的に電子ジャーナル利用に対する費用を負担することはない。コストを負担するのはほとんどの場合,機関だからだ。このため無料で便利に利用できる電子ジャーナルの需要は増すばかりである。出版社は,電子ジャーナルを提供するために基盤となるハードの整備・増強,システム開発,新たなサービスを提供するための開発などに相当のコストをかけており,これが電子ジャーナルの価格に転嫁されていると考えられる。

 

※ その他の要因(為替レートや消費税)

契約金額は為替レートの変動からも大きな影響を受ける。特に2012年から2013年にかけての円安は契約金額上昇に拍車をかけ各図書館の資料費を圧迫することとなった。また2015年4月にはリバースチャージ方式により消費税が課税されることとなり,さらに追い打ちをかけている。

 

図書館は,学術雑誌(電子ジャーナル)の価格上昇分を図書購入費から予算を回すなどして対応してきた。しかし,研究者が主に使用する学術雑誌のために,学部学生が必要とする学習用の図書を購入できなくなるのは,その予算収入が学費であることを考慮しても到底看過できるものではない。

 

このため2000年代後半から,際限なく上昇する電子ジャーナルへの支払額に耐え切れなくなり,ビッグディール契約を解除する図書館も出現するようになった。次のエントリーでは,このビッグディール契約解除の現状について記述してみたい。

 

 

(References)


  1. 尾城孝一,星野雅英,学術情報システムの改革を目指して:国立大学図書館協会における取り組み(連載:シリアルズ・クライシスと学術情報流通の現在(1),情報管理,Vol.53(7),p3-11,2010
  2. 小陳左和子,講演要旨:電子ジャーナル契約を取り巻く現状と課題,東海地区大学図書館協議会誌,Vol.60,33-40,2015

 

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Last Update:2018/05/29

 

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