図書館はビッグディールによって,わずかな金額で飛躍的に利用可能な電子ジャーナルのタイトル数を増加させることができる。しかし,この契約形態には問題点がある。それは以下の2点である。
【問題点】
(1) 契約上,講読誌の規模(契約規模)を維持しなければならない。
(2) 毎年,契約金額が約5%前後ずつ上昇し続ける。 (*1)
(1)の参考として以下の画像は,Elsevier の ScienceDirect 日本語カタログ (*2)の抜粋である。(赤の破線は筆者が追記)
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つまり,契約規模を維持しなければならない(つまり縮小ができない)ため,契約金額を抑制することができず,ビッグディール契約を続ける限り価格上昇を受け入れるしかない。契約金額の上昇に耐えきれず価格抑制をしたいと考えた場合は,ビッグディールを解除するほかなく,解除した場合,利用可能タイトルは当然ながら激減(もちろん利用者からの反発を招くだろう)してしまう。
しかも購読誌数はビッグディール契約前の規模に戻るかというと実は予算面を考えるとそうはならない。購読誌自体も毎年値上がりしているため,予算規模を維持した場合は,年々購読タイトルを少なくするしかないのである。そして将来は,(極端な話)購読できるタイトルはほぼゼロということもありうる訳である。
これについて,2001年に当時ウィスコンシン大学の図書館長だった Kenneth Frazier は,ビッグディールは将来的に図書館や学術コミュニティにとって不利益になるとして,「囚人のジレンマ」になぞらえてその危うさを指摘し,次のようにも述べている。 (*3)
Academic library directors should not sign on to the Big Deal or any comprehensive licensing agreements with commercial publishers.
(図書館長は,商業出版者のビッグディール,あるいは包括ライセンス契約にサインするべきではない)
Those who follow us will face the all-or-nothing choice of paying whatever publishers want or giving up an indispensable resource.
(出版社の望みどおりに支払いを続けるか,あるいは必要不可欠な情報源を諦めるか,All or Nothing の選択に直面するだろう)
なお,Kenneth Frazier は2005年の論文で,これらの指摘を次のように振り返っている。 (*4)
The article was widely read by librarians and the advice was nearly universally ignored.
((ビッグディールの危険性を指摘した)論文は幅広い図書館員に読まれたが,ほとんど無視されてしまった)
次のエントリーでは,価格上昇の理由について解説する。
(References)
- 「雑誌価格の推移」(米国“Library Journal”誌に毎年掲載される“Periodicals Price Survey”を基に,JUSTICE事務局で作成したグラフ)。ppt版とExcel版がある。
- ScienceDirect 日本語カタログ
- Kenneth Frazier, The Librarians’ Dilemma: Contemplating the Costs of the “Big Deal”, D-Lib Magazine, Vol.7(3), 2001
- Kenneth Frazier, What’s the Big Deal?, The Serials Librarian, Vol.48(1-2), p49-59, 2005
(Related Blog Entries)
ビッグディール(Big Deal,電子ジャーナルの包括契約)とは
Last Update:2018/05/29